人間臨終考2026~ブッダ(後編)「生」と「死」と「信仰」と

宗教ではなく哲学に近いとされるブッダの教え。自らを決して神とは言わなかったブッダが神格化されたのはなぜか?宗教における死と生についても考えてみました。後編です。
森達也 2026.02.06
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ブッダ(前463~前383)

Buddha

ブッダの後編に入る前に、少しだけ仏教の教えの真髄について書く。ただしもちろんこれは、僕が感じた真髄だ。別の人は別のように感じるかもしれない。でも人は自分の主観でしか物事を見ることができない。主観からは決して逃れられない。

それに何よりも信仰の真髄など、門外漢の自分に本当にわかるはずがない。信仰とは飛躍だ。ある程度までは論理で説明できるけれど、それ以上は向こう岸(つまり彼岸)に跳ぶしかない。こちら側の岸(此岸)にいながら、本当の意味で信仰を実感することはできない。でも彼岸に行ってしまったならば、此岸の論理が遠くなる。

いずれにせよ、安易に仏教の真髄などと口走るべきではない。それは大前提に置きながらも、とにかく思うことを書いてみる。

「縁起」と「無常」

世界では日々さまざまなことが起きている。あるいはさまざまなものがある。そしてさまざまな人がいる。そのどれひとつをとっても、それだけで単独に存在しているものなどない。

それは今現在のあらゆるものや現象の横のつながりでもあり、あるいは時間や空間を超えた過去からのつながりでもある。これが「縁起」。ブッダの死後に編纂された初期の経典である『阿含経』の一節には、以下のようなフレーズがある。

これ有るとき 彼有り これ無きとき 彼無く

これ生ずるとき 彼生じ これ滅するとき 彼滅す

「これ」と「彼」は、あらゆる言葉と入れ替え可能だ。あなた自身とあなたの恋人でもいいし、東京ディズニーランドとiPhoneでもいい。吉野家の牛丼でもアジの一夜干しでもかまわない。すべてがつながっている。すべてが関係している。

この世界のすべては「縁起」によって関係づけられていると知ったブッダは、次に「苦とは何か」と「どのように苦から逃れるべきか」を考えた。

「苦」とは何か。これを考えるためには、この世界のすべてのものはつながっていることと同時に、すべてのものは移ろいゆくということを知らねばならない。ものは壊れる。そして生きものは死ぬ。今のまま変わらないことをどれほど強く願っても、永久に変わらないものなどない。すべては変化する。

これが「無常」。ところが人は人の心が変わることを嘆く。失ったものをいつまでも惜しむ。人が死ぬことを哀しむ。

ブッダはこの状態を、すべてのものが「無常」であることに気づかない「無知」であると説く。無知は迷いを生み、迷いは欲望につながり、欲望は執着を生み、執着は苦を生む。だから苦から逃れるためには、すべてのものに対する執着を捨てなくてはならない。

しかしこれは難しい。人はあらゆることに執着する生きものだ。お金がほしい。誰かを好きになる。社会的な名声を得たい。このすべては執着だ。ブッダはこれを捨てなさいと説く。これが解脱への道なのだと。

ブッダが唱えたこと

ブッダが唱えた教えは、実のところは宗教というよりも、生きるための哲学に近い。生前のブッダは、自分のことを神であるとは一度も言っていない。また宇宙や空のどこかに造物主や創造神などがいるとも言っていない。ブッダがひたすら唱えたことは、この世界には永久に存在するものなど何ひとつなく、またすべては時間や空間を超えてつながっているということ。その真理さえ知れば、人やものへの執着から離れることができて、生きる苦しみから解放されるということだ。

ブッダが生きた時代のインドは、ブッダが王子として生まれたシャカ族の国も含めて都市国家が乱立し、常に戦争の状態にあった。ブッダが78歳のとき、シャカ族はコーサラ国に滅ぼされたが、それでもブッダは争いを否定し続けた。自分の生まれた国が滅ぼされたというのに、しかも自分はその国の正統な王位継承者だったというのに、ブッダは戦うことを選択せず、いがみ合う各国の王たちに和平を説き続けた。

ありとあらゆるものはつながっている。そして永劫には続かない。ブッダの国を滅ぼしたコーサラ国は、やがてマガダ国に滅ぼされた。そのマガダ国はインドのほぼ全域を支配するほどに繁栄したが、やがて分裂して消滅した。

ありとあらゆるものはつながっている。しかも流転する。同じままではない。

「死」を知り、必要になった信仰

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